大旦那のちょっといい話:<細田安兵衛さんの巻(12)>【中秋の名月と“最中”の月】
■プロフィール
細田 安兵衛(ほそだ やすべえ)
榮太樓總本鋪 相談役。東都のれん会会長。茶道 宗遍流時習軒十一世家元。
1927年、東京日本橋に生まれる。慶應義塾幼稚舎から同大学(昭和25年)卒。
現在、東商名誉議員、全国観光土産品連盟会長のほか、和菓子業界や地元日本橋に関わる団体役員なども務めている。藍綬褒章、勲四等瑞宝章受章。

 

みよちゃん まだまだ暑い日もありますが、空の色や雲の形は、すっかり秋ですね。
(細田) 昔から“天高く馬肥ゆる秋”などというくらいで、秋は空気が澄んでいるから空が高く見える。そして、青空もいいが、秋は夜空も格別だ。
みよちゃん お月見、そして中秋の名月ですね。
(細田) 「中秋の名月」には、中国では月餅(げっぺい)を用意するが、日本ではススキを飾って「月見団子」というイメージが一般的……なのかな?
いや、実のところ我が家では、団子をお供えしてお月見をして、という行事をしたことがないんだ。むしろ僕が満月から連想するのは、最中(もなか)。

最中というのは、文字通り「真ん中」「中心」というような意味なんだが、平安の昔から月をイメージすることが多くて、「秋の最中」といえば「中秋の名月」を指した。
それを菓子としたのが、江戸時代、吉原にあった竹村伊勢という菓子屋。白くて丸い、口どけの良い菓子を考案して、菓銘を「最中の月」としたんだ。
この菓子が“吉原は竹の中から月が出る”という川柳が詠まれたくらい大ヒットした。

みよちゃん 白くて、丸くて、口溶けが良い……? 麩焼き煎餅みたいなものだったんでしょうか。
(細田) さぁ、どうだろう。なにしろさすがに僕もその当時は生まれてなかったんで、食べたことがない(笑)。江戸のお菓子については、まだまだわかっていないことも多い。これからいろんな人が研究していくだろう。

ところで、最中の皮(種/たね)は、一般的には種屋(たねや)さんという専門の業者さんに、それぞれのお店によって独特の形、デザインの型を注文して作ってもらう。榮太樓では以前、三味胴(しゃみどう)型に日本橋の擬宝珠(ぎぼし)を浮き彫りにしたものなどがあった。
それから実は「最中」は、餡も特別なんだ。

みよちゃん お饅頭や餅菓子に入っている餡と、何が違うんですか?
(細田) 最中は、餡はしっとり、皮はパリッとしているだろ? それが最中のおいしさだ。
これが大福餅のように水分の多い餡だったら皮がすぐに湿ってしまうし、栗饅頭のような水分の少ない餡だったらパサパサした菓子になってうまくもなんともない。
みよちゃん たしかに、最中って、餡はしっとりとやわらかいけれど、皮は湿っていませんね。不思議!
(細田) かといって、単に皮がパリパリした最中がいいか、っていうと、そういうもんでもない。適度にパリッ、適度にしっとり。そこが菓子屋の、あるいは職人の腕の見せどころなんだな。
そういう意味では、出来たての「最中」もおいしくないんだ。皮と餡が出合って、馴染んで、それにまた焼いた皮(種)の香ばしさも加わってはじめて「最中」のおいしさが生まれるんだから。
ともあれ「最中」というのは、そんなわけでなかなかおもしろい菓子なんだ。
みよちゃん なるほど~! これから「最中」の味わい方が変わってしまいそうです。ありがとうございました。

 

聞き手:太田美代

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