江戸・東京散歩
第11回 神田・神保町
今回の散歩は、江戸っ子のなかの江戸っ子が住む「神田」界隈と、世界最大の古書店街「神保町」界隈。最寄り駅は、JR御茶ノ水・秋葉原駅と、地下鉄の神保町・小川町・淡路町・神田駅。
どこから歩き出して、どこをまわって、どこで終わりにするか・・・・・・行程に悩むのも散歩の楽しみ。老舗グルメやショッピングも入れながら、楽しい江戸散歩コースをつくってくださいね。
■神田明神
 「神田」という地名は、神様に寄進する稲をつくる田があったことに由来するといわれています。その神田のシンボルが、いわずと知れた”神田明神”。「神田神社」が正式な名前ですが、古くから神田明神、明神様と呼ばれて親しまれてきました。 神田明神が芝崎(現在の大手町の一画)に創建したのは、天平2年(730)のこと。その後、平将門を合祀し、江戸時代になって駿河台に移り、いまの場所に落ち着いたのは元和2年(1616)。
江戸の総鎮守として、華麗な社殿が造営されました。この江戸時代の建築物は、関東大震災によって失われましたが、再建された現在の建物もさすがに豪華です。毎年5月中旬に行われる「神田祭り」は日本を代表する祭りとしてよく知られていますね。
ところで、「神田祭り」は江戸時代には秋に行われていたのをご存知ですか?神田明神や神田祭りに興味のある人は、「江戸の歳時記」の5月の頁に飛んでみてね!
(左画像)神田明神拝殿。お神輿が境内を埋める神田祭は5月です。
(右画像)神田明神下に住んでいた銭形平次をしのぶ石碑も建っていますよ。
■神田青果市場発祥の地
 須田町の交差点近くに、「神田青果市場発祥之地」の石碑が建っているというので行ってきました。靖国通りの一本裏。古い建物が残っているこのエリアには、週末ともなるとスケッチをする日曜画家さんがいっぱいでビックリしました。とはいっても、この碑はマンションの建物の前にあってひっそり。この場所に青物市場ができたのは、貞享3年(1686)のこと。明暦の大火(1657)のあと行われた江戸再建策の一環として、市中にあった青物商が集められ、正徳4年(1714)に幕府の青物役所が置かれると、江戸城で使う野菜を納めることとなりました。
つまり、幕府御用達の市場になったということです。幕府御用達の青物市場は、ほかに駒込と千住にもありましたが、この市場は神田川や鎌倉河岸に近い水運の便利な場所でしたし、お城との距離の近さもあって、まさしく天下の台所の中核となったようです。野菜や果物が次々に入荷され、出荷されていく活気にあふれた市場。どんな風景が神田にあったんでしょうね。ちなみに、神田青物市場は昭和3年まで続いたそうですよ。
(左画像)「神田青果市場発祥之地」碑。江戸から明治、大正を通して、江戸・東京の野菜の一大市場でした。
(右画像)近くには風情のある民家も点在。
■柳森神社
 JR秋葉原駅のすぐ南側、ビルばかりが建ち並ぶ殺風景な景色のなかに、柳の緑がひときわ涼しげな一画があります。それが、柳森神社。 もともとは太田道灌が江戸城を築いたとき、この地が鬼門にあたっていたことから、鬼門よけとしてたくさんの柳を植え、京都の伏見稲荷を勧進して稲荷神社をまつったのが始まりとか。
その後、神田川(神田上水)が造られ、享保年間(1716年~1736)に改めて土手に柳が植えられると、このあたりは「柳原土手」と呼ばれて、広重の絵にも描かれるほどの江戸名所となりました。柳森神社は、いわば名所のなかの名所として人々に親しまれたわけですね。 というわけで、長い歴史を持つ柳森神社ですが、「お稲荷さん」には一般的にはキツネがつきものなのに、この神社は「おたぬき様」。5大将軍綱吉の母・桂昌院が崇敬していた福寿神を神社内の「福寿社」に移して祀ったことに始まるのだそうですが、境内のそこここで出会う、多彩な形・顔つきのたぬきの像には、やっぱりビックリさせられます。
「たぬき」を「他抜き」にかけて、親子のタヌキ像を拝むと出世し、金運のご利益もあるとか。しっかり拝んで帰りましょう。 境内には、ほかに富士塚があったり、力石があったり、幕府が凶作に備えて建てた米の貯蔵庫「籾蔵(もみくら)」跡の標識があったりと、江戸にまつわる見どころがいっぱいです。
左画像)江戸名所の一つだった「柳原土手」。周辺にビルが建ち並ぶ現代では、この神社だけが、当時の風情をわずかにしのばせています。
(右画像)出世・金運にご利益のある「おたぬきさま」。「タヌキ」(たぬき)にひっかけて、「抜群」の文字が彫られています。
■ニコライ堂
 JR御茶ノ水駅のすぐ南に建つ、ギリシャ正教の聖堂。正式には日本ハリストス正教会教団 東京復活大聖堂教会といいます。東方正教会とも呼ばれるキリスト教の教会で、ハリストス(キリストのギリシャ語読み)復活の福音を伝え、聖體礼儀を中心とした神と人との交わりを守っています。 この建物がニコライ堂と呼ばれるわけは、幕末に来日し、以後50年にわたって布教活動をして日本で没したニコライ大主教の名にちなむもので、明治24年に始まった教会建設はイギリス人の建築家・コンドル(鹿鳴館や旧岩崎邸の洋館も設計した)が指揮し、7年かかって完成しました。 その後、大正12年(1923)の関東大震災で鐘楼やドーム屋根が崩壊し、内部も焼失しましたが、昭和2年(1927)に修復工事が開始され、2年後に完成。屋根と鐘楼の外観は創建当時の姿とは異なっていますが、美しく荘厳な姿で復活したニコライ堂は、現在、国の重要文化財に指定されています。
なお、有名なニコライの鐘は、大小6つの鐘があり、日曜日(10時~12時半くらい)の聖体礼儀の始まりと終わり、ほかに結婚式などで鳴らされます。朝6時、正午、夕6時にも鐘が鳴りますが、これはテープ録音されたものなんだそうですよ。
(左画像)一般の参観は火~土曜日の午後1~4時。日曜日のお祈りも、誰でも参加できます。
(右画像)ニコライ堂の鐘。
■湯島聖堂
 ニコライ堂から北へ。「聖橋」を渡ってすぐ右手の森の中に湯島聖堂があります。湯島聖堂は、もともと5代将軍・綱吉が儒学の振興を図るために建て、林羅山の私邸にあった孔子廟と家塾を移したもので、約100年後にはここに幕府直轄の学校「昌平坂学問所(いわゆる昌平校)」が開設されることになりました。 明治になって昌平校は閉じられますが、その後もこの地には日本初の博物館が置かれたり、東京師範学校(現在の筑波学園大)・女子師範学校(現在のお茶の水女児大)が置かれるなど、近代教育発祥の地となりました。
関東大震災で入徳門と水屋を残し焼失したため、そのほかの建物は昭和10年(1935)に再建されたものですが、深い緑と、独特の緊張感のある風格あるたたずまいに心が鎮まります。 最奥にある大成殿は土・日・祝日のみの公開。大屋根にのるシビやこま犬にもご注目を。 毎年4月の第4日曜日には、孔子祭が執り行われています。
JR御茶ノ水駅のすぐ北側にあるにも関わらず、森閑とした空気に驚かされます。
■明治大学博物館
 駿河台に建つ明治大学は、ユニークな博物館を持つことでも知られています。ちょっとのぞいてみましょう。明治大学の博物館には3つの部門があります。「商品部門」は商品を通した生活文化を紹介。「考古部門」は歴史ある明治大学の考古学の成果を紹介しており、重要文化財に指定されている考古学資料なども公開されています。
そして、最も興味あふれる展示が見られるのが「刑事部門」。十手などの江戸の捕り物具や世界の拷問・処刑具など人権抑圧の歴史を伝える実物資料が圧巻です! なかでもギロチンやニュルンベルクの鉄の処女は、わが国唯一の展示。充実した展示のほか、私立大学では初めての本格的ミュージアムショップも。ユニークなミュージアムグッズをおみやげにどうぞ。
巨大でモダンな建物にびっくり。博物館は地下にあり、常設展は無料と、とっても太っ腹。開館時間は10時~16時30分。
■神保町と古本
 神保町交差点を中心とした半径500~600m圏内は、古書店が建ち並ぶ異色のエリアです。神保町に古書店が集まり始めたのは、明治になってからのこと(江戸時代の書籍の出版や販売業は京橋や日本橋が中心でした)。明治維新とともに、政府の高官や華族、医師などの知識階級が神田に集められたことに加え、官立、私立の各種学校がこぞって神田に設立されたことから、インテリや学生が集まる街として書物の需要が増え、ここに古本屋さんが続々と誕生していったのです。 古書店が集まる街としては、パリのセーヌ河畔をはじめ、北京やロンドン、ニューヨークなどが知られていますが、その密集率において神保町は世界最大。さらに、その総合性や専門性においても、文句なしの世界一と胸を張って言えるそうですよ。
この界隈は明治以降、何度も大火事で焼け、特に大正12年の関東大震災では、街のほとんどが焼失・崩壊しましたが、そのたびにすばやい復興をみせてきました。また、第2次世界大戦では奇跡的に空襲を逃れましたが、これはハーバード大学で教鞭をとっていたロシア人のエリセーエフ博士が、貴重な文化財のある神保町一帯を空襲しないようにと米軍に進言したからだと言われています。 ちなみに、若き日のエリセーエフ博士は明治41年に来日して、東京帝大の文学科に入学。6年間の日本滞在中に夏目漱石と出会って、生涯、「漱石門下」であることを誇りにしていたそうですよ。
現在、神保町にある古書店は、約140店。テーマをしぼったユニークな古書店も誕生して、いよいよ活気づいています。
神田古書店連盟のHPも、なかなかの充実ぶりですよ。
周辺に古書店がぎっしり並ぶ神保町交差点界隈。脇道、裏道散歩もおすすめです。
【老舗散歩も楽しんでね】
※老舗の詳細はこちら
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