<白木屋傳兵衛>中村梅吉さんの「いい話」【第19回:歳時記:10月】

10月は、神無月。すべての神様が出雲に集まる月なので、出雲以外は恵比寿さんだけ残る。そこで、これを慰めよう、敬おう、ということで始まったのが恵比寿講(講は組合)だ。江戸独自の風習ではなく、商都大坂の発祥だそうだ。
恵比寿さん(江戸っ子はエベスと発音する)は、七福神では唯一、国産の神様で、うちの近くでは日本橋小舟町の宝田恵比寿神社にお祀りされている。古社だが、江戸城の拡張工事で現在の地に飛ばされ、祭り日以外はビルと駐車場にはさまれて、近所の会社の社員さんたちも、その存在を忘れているほどだ。

この神社があるあたりから大伝馬町にかけては、江戸時代は大商店が軒を連ねたところで、恵比寿講は、そうした店の店員たちの福利厚生の祭りでもあったようだ。10月19日、店員たちは競って「素人芝居」をし、無礼講のドンチャカ騒ぎをし、20日は繁盛を祈って過したそうだ。ついでに書いておくと、戦前の問屋街では、旧暦での恵比寿講が終わらないと、小僧は足袋を履けなかった。
現在はそんな風習は見られなくなったが、新出来の大根を麴で漬けた「べったら漬け」を売る露店が並ぶ「べったら市」で賑わうのは昔も今も同じ。ここだけの秘密の話だが、椙森神社の入口左の売店は町内会が儲けなしで売っているので、一番安い。
この祭りが終わると、伝馬町一帯では11月のふいご祭り(刃物屋の祭り)にかけて歳末商戦がスタートする。

中村梅吉(なかむら うめきち)
白木屋中村伝兵衛商店6代目店主。昭和4年(1929)、東京市京橋区宝町3-4(現:中央区京橋3-9-8)に白木屋箒店(現、白木屋中村伝兵衛商店)の長男として生まれる。
区立京橋国民学校(小学校)、東京府立第3中学(現両国高校)を経て、東京外事専門学校(現東京外語大)の蒙古科に入学。蒙古語、中国語、ロシヤ語を習得。昭和37年(1962)から平成15年(2003)まで、6代目店主として家業に勤しむ。
昭和55年(1980)から中央区歴史講座で川崎房五郎氏に師事し、江戸学を開始。隠居後、中央区の文化サポーターや江戸東京博物館ボランティアとして、年間30回以上、講演や街歩きの案内を務めている。
また、東京大空襲の被災者としての証言など、様々な形で江戸—東京の歴史を伝える活動にも関わり続けている。茶道、飛行機模型、手話などなど、趣味も多彩で本格派。