【両国橋 鳥安】
◆鍋にダムあり◆
 厚く切った合鴨の胸肉を、備長炭で熱した鉄鍋で焼きながら、おろし醤油で食べていただく――当店のメニューは、明治5年創業当時からこれ一品だけです。材料も当初のままですし、座敷で出すおもてなしの形も同じ、そして合鴨を焼く鉄鍋も、初代が考えたままの形が現在でも使われています。
この鉄鍋ですが、かなりの厚みがあり、さらに特徴的なのは底の一部が深く掘り下げられていることです。ちょうど縦半分に切った卵がすっぽり入るくらいの大きさで、私たちはこの穴を「ダム」と呼んでいます。合鴨から出た余分な脂がここに落ちる、いわば脂受けのダム。
これがあることで、合鴨はべたつくことなく実にほどよく焼き上がるのです。さらに、おまけもあって、椎茸などを入れておくと、たまった脂が揚げてくれる、小さな揚げ鍋にもなるのです。
作り変えるたびに歴代の当主がこの鍋にさらに工夫はできないかと考えるわけですが、結局は創業以来のこの鍋を超えることができずにいます。手前味噌ながら、ほんとによくできた形なのです。
それにしても、この鉄鍋、初代が一人で知恵を絞ったものなのか、それとも食通のお客様にでもアイデアをいただきながら仕上げていったものなのか……。確かなことは歴史の霧の中です。
あひ鴨料理
両国橋 鳥安
●中央区東日本橋2-11-7
(JR浅草橋、地下鉄東日本橋駅から徒歩4分)
●03(3862)4008

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