【人形町志乃多寿司總本店】
◆火事見舞い”のお寿司◆
 火事と喧嘩は江戸の華。実際、江戸時代は火事が多く、町内中が焼け出されるということもしばしばありました。けれど、火事が多かったのは江戸時代だけではありません。東京消防庁の統計によりますと、昨年1年間だけでも管内で発生した火災は6932件。決して減ってはいません。
ところで、ひと昔前までは、火事で類焼を受けた家や水浸しになってしまった家には、火事見舞いが届けられました。当店の志乃多(いなり寿司)と海苔巻の入った折詰も、そんなご用によく使われたものです。火を使わずにそのまま手で召し上がっていただける簡便性と、生ものが入らないところがお見舞いには喜ばれたのでしょう。
それが、いつの頃からでしょうか、火事見舞いの折詰を作ることがなくなりました。
飲食店が増えて、当座の食べ物に困ることがなくなったから……では多分ないでしょう。火事見舞いは、昔も、緊急の食料であるという以前に、知人の災難を思いやる心をかたちにしたものでしたから。
殺気だった雰囲気と、失ったものへの切ない思いに乱れる被災者の心を、ほのかに甘い小さな寿司が少しでも救ったのではないか――火事見舞いがなくなった昨今の風潮を、ちょっと寂しい思いでみております。
寿司
人形町志乃多寿司總本店
●中央区人形町2-10-10
(J地下鉄人形町駅から徒歩3分)
●03(3666)4561

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