【各店よもやま話】

老舗のあるじが語る「各店よもやま話」。今月は「神茂」と「両国橋 鳥安」のお話です。

 

■かんもと「すじ」
当店の看板商品は、はんぺんと蒲鉾ですが、もう一つの名物として”すじ”がございます。
はんぺんはサメを主原料として作るのですが、その副産物として大量に出るのが軟骨や身のついた「すじ」。これをミンチにし、少量の食塩とつなぎの澱粉を加えてすり、すだれで巻いて茹でたものを商品としてお出ししているのです。手前味噌になりますが、これがおでん種にするとなかなかおいしく、歯ごたえの楽しさもあって、冬の間、販売しているのです。
ところで、歌舞伎界では若手でちょっと筋のいい役者が出てくると、
「あの野郎、ちょいとカンモだねえ」
という言い方をするのだという話を梨園の方からうかがいました。うちの「すじ」と、素質があるという意味の「筋」をかけた梨園ならではの粋な隠語。いつ頃、どなたが言い始められたのでしょう。
もとはといえば、余り物を利用できないかと工夫した「すじ」。そんなものにもちゃんと目をかけてくださっているファンがいたことを、思いがけない形で知ることになったのです。
この先も、「すじがいい」と言っていただけるように精進を積まなくては……。背筋が伸びる思いでございます。
◎神茂 /中央区日本橋室町1-11-8

図3

 

■鍋にダムあり
厚く切った合鴨の胸肉を、備長炭で熱した鉄鍋で焼きながら、おろし醤油で召し上がっていただく。当店のメニューは、明治5年の創業から現在まで、この「相鴨すきやき」一品だけです。材料も当初のままですし、座敷で出すおもてなしの形も同じ。そして合鴨を焼く鉄鍋も、初代が考えたままの形が現在でも使われています。
この鉄鍋ですが、かなりの厚みがあり、さらに特徴的なのは底の一部が深く掘り下げられていることです。ちょうど縦半分に切った卵がすっぽり入るくらいの大きさで、私たちはこの穴を「ダム」と呼んでいます。合鴨から出た余分な脂がここに落ちる、いわば脂受けのダム。これがあることで、合鴨はべたつくことなく、実に程よく焼き上がるのです。さらに、この穴に椎茸などを入れておくと、たまった脂がカラリと揚げてくれる、小さな揚げ鍋にもなるのです。
鍋を作り変えるたびに歴代の当主がこの鍋をさらに工夫はできないかと考えるわけですが、結局は創業以来のこの鍋を超えることができずにいます。手前味噌ながら、ほんとによくできた形なのです。
それにしても、この鉄鍋、誰が考え付いたものなのでしょう。確かなことは歴史の霧の中です。
◎両国橋 鳥安/中央区東日本橋2-11-7
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