【連載 老舗のよもやま話】 「吉野屋商店」の巻

◆「風景」をつくる灯り

 提灯は、日本独自の灯火具です。
原型は安土桃山時代に中国からもたらされ、その後、日本の職人によって折り畳めるといった工夫がなされました。そして、江戸時代にロウソクが普及すると、提灯は携行用の灯りとして一気に普及し、表面に文字や絵、紋を描くなど工芸的にも洗練されて、単なる灯りを超えた役割を持つようになりました。
 当店も安政元年(1854)に神田で創業し、以来、7代・170年にわたって、白提灯に文字や紋を描き、木枠を取り付け、あまに油を塗って仕上げる仕事を続けてきました。

 照明器具といえば電気が当たり前になった昨今ですが、提灯は今もさまざまな場所で使われています。仕事帰りの人を手招きする焼鶏屋さんの提灯、お寺の山門や本堂で参拝者を迎える大提灯、歌舞伎座の正面入口や場内を華やかに照らす提灯。そして、祭りの行列の先頭を行く高張提灯や神社の参道に掲げられる協賛・奉納者の名入りの提灯……。案外、提灯は街のいたるところにあるのです。

 飾るだけで、その場所に華やぎと格調をもたらし、灯を入れればその場所を幽玄におごそかに浮かび上がらせる提灯。提灯は、人々の気持ちに寄り沿い、祭りを盛り上げ、街を照らして、日本ならではの風景をつくっている灯りです。

●江戸手描提灯 吉野屋商店
●千代田区神田佐久間町2ー13(JR秋葉原駅から徒歩4分)
●03(3866)2935

2505-11