おうちで学ぼう【老舗のよもやま話】

老舗の主人が語る「よもやま話」。今月は足袋の「大野屋總本店」とパンの「木村屋總本店」のお話です。

◆歌舞伎の足袋
 本日は歌舞伎役者さんの足袋についてお話しいたしましょう。
当店の注文足袋は、足が細くきれいに見えるように、底を狭くとり、爪先から足首までをきりりと包み込むように作ります。そこで、最初のご注文時には足裏の幅や足首まわり、甲の高さなど5箇所ほどを計らせていただきます。出来上がると、実際に履いていただいて、こはぜを受ける掛け糸の位置を変えるなどの細かい調整をします。
 これが基本ですが、歌舞伎では、たとえば早変わりをなさる方の足袋は、こはぜではなくマジックテープも活躍します。また、旅立ちの場面がある演目などでは紐足袋が登場します。足袋の紐を結ぶことで、旅立ちの感じが増すというわけですね。イラストで描いてもらった紐足袋の柄はトンボ。トンボは「勝虫」とも呼ばれていて、縁起がいいんですよ。
 それから、歌舞伎では一般に派手な色の生地を使います。照明が当たると色は飛んでしまうので、客席で桜色に見える足袋なら、実際はショッキングピンクに近い色といった具合です。
 さらに、演目が古い時代を扱ったもの、例えばヤマトタケルだとしたら、足袋はどんな形になると思われますか? 古代の人はスリッパ型の靴を履いていましたから、足袋は靴下型。つまり、親指のところで二股に分かれていないものを使います。 次回、歌舞伎をご覧になるときには、どうぞ足元にもご注目を。

◎大野屋總本店/中央区新富2-2-1

 

◆江戸わずらいにパンが効く
 江戸時代、江戸に長く滞在している商人や武士たちが、下半身がしびれたり膝下に浮腫ができて歩行困難になることがしばしばありました。不思議なことに、本国に戻るとまもなく快癒するのです。そこで、この奇病は「江戸わずらい」などと呼ばれていました。
 この病気、実は”脚気“ビタミンB1欠乏症なのです。麦飯や雑穀を食べている田舎の生活から白米中心の食生活になることで発症するのですが、当時は原因も治療法もわからず、脚気は明治を迎えても蔓延していました。
 そんな患者の一人に、乃木将軍の親友で、桂弥一という軍人がいました。その入院先にいたドイツ人医師が、こんな提案をしたのです。
 「この病気はドイツでもフランスでも見たことがありません。もしかしたら、西洋風にパンを食べたら治るかも……」
 そこで、パンと牛乳による食事療法を続けること10カ月。桂さんは回復しました。その時に用いられたのが当店の食パンです。噂は広がり、病院には脚気患者が押しかけ、入院できない人々は創業3年目の当店にパンを買い求めにおいでになりました。珍しい食べ物だったパンが、このときから、まずは病人食として広く知られていったのです。
 鈴木梅太郎博士が脚気の原因を突き止めたのは、明治43年(1910)。もう少し先のお話です。

◎木村屋總本店/中央区銀座4-5-7