各店よもやま話

東都のれん会の加盟店の主人が語る「各店よもやま話」。今回は、仏壇・仏具の老舗「安田松慶堂」の当主・安田元慶さんからの「ちょっといい話」です。

図5

曾祖父が作った文殊様
私ども安田松慶堂は、もともと京都の嵯峨御所の御用彫刻を預かってきた家でした。寛政4年(1792)に徳川家の招きで芝増上寺の大仏師となり、以来、江戸・東京で仏壇や仏具を商い、私の祖父までは当主も仏像を彫っておりました。
なかでも曾祖父の5代目・安田松慶は、東京美術学校(現在の東京芸術大学)で高村光雲に彫刻を学び、卒業後も弟子となって腕を磨いた人でした。しかし、彫り上げた仏像のほとんどは商品として手元を離れ、残った作品も昭和20年の東京空襲ですべて焼失してしまいました。したがって、これまで私たちは曾祖父の作品を見たことがありませんでした。
ところが2021年の春、いとこから1通のLINEが届きました。調べものでネット検索をしていて、たまたま「安田松慶作の仏像」が銀座の古美術店で売られているのを見つけた、というのです。
驚いて古美術店に飛んでいくと、身丈30㎝ほどの木彫の文殊菩薩像が静かに佇んでおられました。やわらかな衣を身にまとい、経巻を携えた姿は、慈悲に満ち、どこから見ても美しく、厳かです。そして、この木像が明治30年(1897)に行われた「東京彫工会」第12回彫刻競技会でブロンズメダル(銅牌)を受賞した作品であることもわかりました。
120年の時を超えて、我が家に里帰りされた文殊様。コロナ禍の真っただ中、曾祖父のエールが届いたような気がしています。