【老舗のよもやま話】妻への手土産

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 川魚問屋から鰻料理の店に転じて200年余。駒形前川は、江戸で町人文化が花ひらいた文化文政期に隅田川のほとり、まさに「前に川」を見る場所で暖簾を揚げました。長い歴史の間には著名人のお客様のエピソードも数々ございますが、私が最も胸打たれたのは、彫刻家にして詩人の高村光太郎にまつわるお話です。

 高村光太郎の文筆家としての代表作といえば、『智恵子抄』。妻・千恵子との出会いから30年にわたって書かれた詩集ですが、智恵子は次第に、心の病に犯されていきます。
  「智恵子は東京には空が無いといふ ほんとの空が見たいといふ」 という絶唱を覚えている方も多いのではないでしょうか。
愛妻家だった、高村高太郎。自身は身長177cmもある大男で健啖家としても知られ、当店でも旺盛な食欲をみせていたそうですが、帰り際には必ず、蒲焼に加え、「妻のために」と、鰻の肝のお土産も注文されたと伝え聞いています。

◎駒形 前川 /台東区駒形2-1-29 /TEL.03(3841)6314