【第二十五回目】
前川:隅田川を見ながら絶品「蒲焼」
毎年7月に入ると、デパートの食料品売り場や鰻屋さんの店頭に「土用丑の日」と書いた紙が張り出されます。不思議なことに、書体は違っても必ず白い紙に墨文字で黒々と書いてあるのが決まり。そして、この5文字で「鰻をお召し上がりになりませんか」というお誘いをしているのだから、日本語というのはほんとにおもしろいですね。
ちなみに2008年の土用丑の日は7月24日と8月4日。こんなふうに2回ある年もあるんです。
ともあれ、今年はどこの鰻屋さんをご案内しましょうか。夕涼みを兼ねて、隅田川のほとりにある店はいかがでしょう。川を目の前にして建っているので、その名も「前川」。文化・文政年間(1804~1830)創業の老舗です。
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25-b 「前川」の鰻は、通常は天然に近い味わいの坂東太郎(ばんどうたろう)という養殖うなぎを使用。5月~11月には天然うなぎも味わえますが、希少で入荷がないときもあるので予約時に確認してください。
名物の蒲焼は、創業以来、継ぎ足し継ぎ足しして守られてきた秘伝のタレをつけながらじっくり焼き上げられて運ばれてきます。表裏16回焼き返される間に生まれる、美しい焼き色と照り。口の中で豊かにひろがるうま味と華やかな香りは、この店ならでは。また、白焼きの深い味わいも、絶品です。
「う巻き」や「うざく」などお酒がすすむ佳肴もあれこれ。なにより隅田川の流れを眼下に、和室でゆったりとくつろげる居心地のよさがご馳走でしょう。
高村光太郎や池波正太郎、山田耕作など、多くの文化人たちがひいきにしたのも、この大らかな風景とともに名物鰻をいただく贅沢な時間を愛したからでしょうね。
体にも心にも栄養満点。今年もおいしくいただきましょう。
*土用
「土用」は季節と季節の間の18~19日間を指す言葉ですから、本来は年4回めぐってくるものです。でも、現在では夏の土用だけを指し、「土用丑の日」というひと続きのことばとして使われることが多いようです。
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