【第十回目】
羽二重団子:文人も愛した“素朴”。変わらぬ団子のすばらしさ。
いらっしゃいませ。「文学作品にゆかりの店のご紹介」……ですね。このリクエスト、実はたくさんいただきます。東都のれん会の各店はいずれも長い歴史がございますので、それぞれに文人墨客との交流があり、また文学作品に登場している店も少なくないのですが……。たとえば、お客様の場合は、どのような作家がお気に入りでしょう。
「近代文学では夏目漱石かな」。はい。
「しかし、なんといっても司馬遼太郎が一番!」。私もファンです。
「俳句にも、このところ興味があって」。
承知いたしました。それなら、もう一も二もなく「羽二重団子」さんをおすすめします。

羽二重団子は、文政2年(1819)の創業です。場所は、日暮里駅から線路沿いの道を東に歩いて5分ほど。現在は東日暮里という少々味気ない住所になっていますが、その昔は“根岸”と呼ばれて皇族をはじめ、文人や芸術家、学者などが集まる閑雅な別荘地として知られていたところです。ビル造りですが、そこだけポンとやわらかな日がさしているようなたたずまいですから、すぐにおわかりになりますよ。

お店に入ると、入り口近くに売店、奥に庭を配した喫茶室がありますので、どうぞお好きな席へ。まずは一服なさってください。お煎茶とのセットを頼むと、漉し餡の団子と、生醤油の団子の2本の串団子が運ばれてきます。お茶もたっぷり急須ごと。
餡の団子も醤油の団子も、まん丸の団子ではなく、少し平らに押してあります。4つずつ、竹串で刺してあって、一見、いかにも下町風。けれど、じっくり眺めれば、その姿かたちが、実にしみじみとした風情を持っていることに驚かれるでしょう。“素朴”をきわめた気品、とでも申しましょうか。

一つ口に入れていただけば、さらに実感されるはずですよ。きめこまやかな団子の光沢、そしてシコシコと粘りのある歯ざわりは、子ども相手に作っているお菓子とは一線を画す、見事な味わいです。
この店のことを漱石は『吾輩は猫である』に、司馬遼太郎は『坂の上の雲』に書いています。俳句なら、子規の句から一つご紹介しましょうか。
「芋坂も団子も月のゆかりかな」
芋坂は、この店の脇を抜けて谷中墓地(谷中霊園)へと続く道の愛称。十五夜の別名を“芋名月”といいますから、それで「芋坂も団子も月の……」と詠まれたのでしょう。子規の最後の家となった「子規庵」も、お店から歩いて10分ほどのところです。ぜひ、お訪ねください。
変貌激しい東京の街ですが、この店には、創業以来の変わらぬ味わいと、律儀なほどに誠実な、もてなしの空気が流れています。
背筋が伸びる団子屋……。日本全国を見渡しても、そうそうあるものじゃありません。日本人が失いかけているものを思い出させてくれるような、いい散歩をしていただけると存じます。

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