大旦那のちょっといい話:<細田安兵衛さんの巻(7)>【出発の季節と紅白饅頭】
■プロフィール
細田 安兵衛(ほそだ やすべえ)
榮太樓總本鋪 相談役。東都のれん会会長。茶道 宗遍流時習軒十一世家元。
1927年、東京日本橋に生まれる。慶應義塾幼稚舎から同大学(昭和25年)卒。
現在、東商名誉議員、全国観光土産品連盟会長のほか、和菓子業界や地元日本橋に関わる団体役員なども務めている。藍綬褒章、勲四等瑞宝章受章。

 

みよちゃん 4月。年度が替わって、入学式や入社式の季節。街を歩いていても、新品のスーツを着てピカピカの靴を履いたフレッシャーズの姿が目につきます。
(細田) 日本では、人生の新たな出発となる祝賀の式が、ちょうど花々が咲き始める4月に行われる。なんたって、これが晴れやかでいいね。
そして、菓子屋の立場から言うと、そういうおめでたい席には、紅白の薯蕷饅頭。これが、実に祝いにふさわしい色・形だと思うんだ。見るからにめでたい紅白の色と、ふっくらとして丸い形。しかも、饅頭というのは、最もポピュラーで、きわめておいしい菓子でもある。
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みよちゃん あれこれと複雑に手をかけず、明るく、おおらかで、おいしい、というのがこの祝菓子の真骨頂なんですね。
(細田) そうそう。
それにしても、紅白という色合わせは、不思議だねぇ。なぜ、紅白なんだろう。
「紅」は、太陽の色、朝日が昇る色から発想されたものかと思うけれど、世界を見ると、太陽は黄色で表されることの方が多いらしい。とすると、太陽=紅=めでたい、という図式で説明するわけにはいかない。つまり、日本人なら誰が見ても紅白は祝いの色だとわかるけれど、外国の人には通じないことになる。
みよちゃん 紅白については、源氏と平家の紅・白の旗の色に由来するとか、中国の陰陽五行説に影響されて生まれたものであるとか諸説あるようですが、いずれも紅白がめでたい色となった理由をちゃんと説明できるものではないようです。でも、何にしても日本独特の祝いの色というのがおもしろいですね。
ところで、細田さんは入社される新人にはどんな話をなさるんですか?
(細田) 最近は私が入社式などで式辞を述べることはなくなったけれど、そういう時は「菓子は生き物なんだ。だから大切に可愛がってやらなければいけない。そして、このことは新入社員である君たちでも、ベテランの先輩たちに少しも負けずに今日からすぐできることなんだよ」と話してきた。
そして、新入社員に限らずいつも言っているのは「味は親切に在(あ)り」という言葉なんだ。
つまり、材料を選ぶ人も、菓子を作る人も、出来上がった菓子を運ぶ人も、お客様に売り、手渡しする人も、この店・この菓子に関わるすべての人が“親切”であってこそ、おいしい菓子になるんだと。もちろん、お客様に対してだけじゃない。経営者は従業員や出入り業者に“親切”でなければならないし、その逆もまた大切だと思っています。
みよちゃん 「味は親切に在り」。いい言葉ですね。
ではまた来月。宜しくお願いします。

 

聞き手:太田美代

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