大旦那のちょっといい話:<細田安兵衛さんの巻(8)>【鯉のぼりと柏餅】
■プロフィール
細田 安兵衛(ほそだ やすべえ)
榮太樓總本鋪 相談役。東都のれん会会長。茶道 宗遍流時習軒十一世家元。
1927年、東京日本橋に生まれる。慶應義塾幼稚舎から同大学(昭和25年)卒。
現在、東商名誉議員、全国観光土産品連盟会長のほか、和菓子業界や地元日本橋に関わる団体役員なども務めている。藍綬褒章、勲四等瑞宝章受章。

 

みよちゃん 5月といえば、端午の節句。鯉のぼりが空を泳いで、さわやかな季節です。
(細田) 昔は「屋根より高い鯉のぼり~♪」と歌ったもんだが、最近はマンションのベランダから小さな鯉のぼりが差し出されていたりして、東京で鯉のぼりが悠々と皐月の空を泳ぐ姿はほとんど見られなくなってしまった……。しかし、小さくとも、鯉のぼりがあがっている家には、日本男子がいる、ということだな。
みよちゃん はい、私も鯉のぼりを見ると、元気な男の子の姿を想像して晴れ晴れとした気分になります。こうした季節の風物詩は、これからもずっと残していかないといけませんね。
(細田) そう。特に、鯉のぼりは江戸発祥。それも武家のもののアレンジではなく、江戸っ子の発明品だからね。誰が考え出したのはわからないけれど、幟(のぼり)を鯉に見立てたのはうまかった。
みよちゃん 大きな口をあけて空にひるがえる勇壮で愛嬌のある姿と、滝のぼりをするという鯉の縁起が見事にマッチ! 鯉のぼりのある風景は、江戸時代中期以降の錦絵にも盛んに出てきます。
(細田) そして、もう一つ端午の節句に欠かせないものといえば、関西では粽(ちまき)、関東では柏餅(かしわもち)。節句の行事菓子だ。
粽は中国から伝わったもので、平安時代には端午の節句で使われた記録があるらしいが、甘い菓子となったのは江戸時代から。また、柏餅は江戸時代の江戸で作られ始めた菓子のようだ。
それにしてもどちらも植物の葉で包む菓子だが、きりりとした姿の粽に比べて、柏餅はなんとものどかな姿形だね。飾りっ気がまったくなくて、一つ食べればズシリと腹にたまる。まさに、江戸の菓子だ。
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みよちゃん 小豆餡のものと味噌餡のものがあって、柏(かしわ)の葉の裏表で区別して売られていますね。
(細田) なぜ柏の葉で包むのか、知ってるかい?
普通、落葉樹は秋になると葉を落とすけれど、柏の葉は茶色になっても葉が落ちず、春、新芽が出てから落葉する。つまり、あの菓子は、柏の葉を使うことで、世継ぎの誕生を確認してから一生を終えるという子孫繁栄の願いを込めているんだ。
また、柏餅は、新粉の餅を丸めて団子にし、それを小判型にのばして餡を包み、二つ折りにするんだが、この餅をのばす時の動作が柏手(かしわで)を打つ仕草に似ていることから、柏餅の名がつけられたという説もある。
みよちゃん 柏餅って、まさしく親が子どもの成長を願う端午の節句にふさわしいお菓子だったんですね。
(細田) 柏餅一つにも、このような自然や故事来歴などを背景とした菓銘の由来があるわけで、ここにも和菓子が食文化の担い手である由縁が見られる。近頃は畳の生活が少なくなったが、昔は1枚の掛け蒲団を二つ折りにしてくるまって、畳に寝転んでいる貧乏人の寝姿を「柏餅」などとも言ったんだよ。
みよちゃん 和菓子の世界って、ほんとに奥が深いですね。来月のお話も楽しみにしています!
ありがとうございました。

 

聞き手:太田美代

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