大旦那のちょっといい話:<細田安兵衛さんの巻(11)>【見る夏、聞く秋】
■プロフィール
細田 安兵衛(ほそだ やすべえ)
榮太樓總本鋪 相談役。東都のれん会会長。茶道 宗遍流時習軒十一世家元。
1927年、東京日本橋に生まれる。慶應義塾幼稚舎から同大学(昭和25年)卒。
現在、東商名誉議員、全国観光土産品連盟会長のほか、和菓子業界や地元日本橋に関わる団体役員なども務めている。藍綬褒章、勲四等瑞宝章受章。

 

みよちゃん 8月になりました。今年は、梅雨明け宣言後もはっきりしない空模様が続いていて、ちょっとおかしいですね。やはり夏は、カッとお日様が照りつけて、入道雲がもくもく立ちのぼってくれないと。
(細田) 異常気象だとか温暖化だとか、どうも地球の気象が変わってきているようだね。それでクール・ビズとか言って、政治家の先生方が無理してアロハなんて着たりして(笑)。

日本には、昔から日本流のクーズビズというか、夏を涼しく暮らす工夫があるだろう?
服装でいえば、まず浴衣がある。絽や紗など透ける着物もある。こうした衣類はアロハの涼しさにはとても勝てないが、見た目の涼しさやさらっとした肌触りなどで涼しさを感じさせてくれる。

みよちゃん 着ている人はもちろん、見ている方も、夏の暑さを忘れます!
(細田) 衣食住の「食」で言えば、葛(くず)のお菓子もそうだ。餡を葛で包んだ生菓子などは、水面から川底の石を見ているような涼感を楽しむわけだが、食べて口の中が冷たくなるわけじゃない。むしろ葛は冷やすと硬くなってしまうから、冷蔵庫でキンキンに冷やすとおいしさがなくなってしまう。
また、茶の湯では、夏には「平茶碗」といって、口が広く、背の低い、皿に近い形のものを使用する。これは中の茶湯が少しでも冷めていることを感じさせる趣向なんだよ。

「住」も、すだれをかけたり、風鈴を吊るしたりと夏のしつらえをするが、それでクーラーのように室温がぐっと下がるわけじゃない。しかし、日本人なら、風鈴の音に「涼しい」と感じるんじゃないかな。
蝉の声なども外国の人は「うるさいなー」としか思わないかもしれないが、日本人は「蝉時雨(せみしぐれ)」なんて言葉まで生み出している。こうなると、もう暑苦しい騒音ではなくなるんだな。

みよちゃん 日本の夏の音、そして短い夏を惜しむ声にも聞こえて、切ないような情感まで伝わってきます。
(細田) 蝉の大合唱が虫の声に入れ替わっていって、まもなく秋が来る。
♪虫の音を 止めて嬉しき庭伝い……で始まる有名な小唄もあるな。
みよちゃん 虫が急に泣き止んだのは、庭伝いに誰かが忍んで来るのかしら……というような意味でしょうか。うわぁー、粋な文句!

今年の立秋は8月7日。この日からはお便りも残暑見舞いです。
皆様、それぞれによい夏になるといいですね。
では、また来月。ありがとうございました。

 

聞き手:太田美代

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