【第二十三回目】
伊場仙:うちわ、扇子で江戸の涼風を呼ぶ
いらっしゃいませ。老舗のコンシェルジュです。今日のご用命は?
「夏らしい、ちょっとしたプレゼントがしたいんだけれど…」。
あ、お中元ではなくて、親しい方への気のきいた贈り物のご相談ですね。それなら「うちわ」や「扇子」などはいかがでしょうか。「花火大会に行くときにでも使って」なんて言って渡されたら、大喜びなさいますよ。
創業400年の老舗「伊場仙」をおすすめしましょう。
ところで、うちわや扇子がいつ頃から使われていた道具か、ご存知ですか?
うちわは、昔むかし、大陸から伝わってきたものです。高松塚古墳の壁画にも、大きなうちわのようなものをかざしている女性が描かれていますが、あれが「うちわ」の古いかたちでしょう。高貴な方々の生活、儀式のなかで使われていたんですね。さらに、時代がくだり戦国時代になると、武将が軍を指揮する軍配として使われるようになりました。いまでも相撲の行司が使う軍配に、その姿をみることができます。おもしろいですね。
一方、その「うちわ」を折りたためるように工夫したのが「扇子」です。平安絵巻にも描かれているように貴族階級が使う道具となり、15世紀頃からは海外にも渡るようになりました。ヨーロッパの絵画には貴婦人がシルクの扇を使っている絵がたくさん描かれていますが、実は日本の「扇子」が姿を変えていったものなのです。
ともあれ、こうしたいわば上流階級が使っていた道具を庶民が使うようになったのは江戸中期からです。特にうちわは大流行し、手描きでは間に合わず、木版技術を駆使してさまざまな絵柄のものが作られるようになりました。伊場仙は、その版元として初代豊国や国芳、広重など名だたる絵師たちに浮世絵を発注し、うちわに仕上げていったのです。
当時、世に出た「伊場仙」版の浮世絵は、いま国内はもとより大英博物館、ボストン美術館、メトロポリタン美術館など著名な美術館に所蔵されています。
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さあ、ここが「伊場仙」です。色も形もいろいろ。説明を聞きながら、あれこれ見せてもらいましょう。でも、見れば見るほど迷っちゃう? 浴衣姿でうちわを持ちたいなら、帯や浴衣の色に合わせて選ぶ、なんていうのも楽しそう。日常的に使う扇子なら、シンプルな無地のものがおすすめ。無地とはいっても江戸の伝統色などは、とてもきれい。しかも、斬新、現代的です。
でも、この小道具たちが最も生き生きと輝くのは、扇子が開かれるとき、うちわがしなり風を起こす時です。ああ、なんてきれいな日本の色、形!
きっといい夏になりますよ。

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