【第十六回目】
大野屋總本店:究極のおしゃれ――「足袋」
 「おしゃれは足元から」なんて、いいますね。どんなにきれいな服を着て、高価なカバンを持っていても、足元(たとえば靴)で、その人のふところ具合がわかるし、センスがわかる、と。でも、時に「品性までわかる」なんておっしゃる方もいらっしゃいますから、気をつけねば。時折、自分の「足元を見つめる」ことはたしかに大切かもしれませんね。
 むずかしげな話はさておき、今日はまさしく「足元」の究極のおしゃれを教えてくれる店をご紹介しましょう。大野屋總本店。安永年間(1772~1781)の創業と伝えられていますから、230年もの歴史を誇る江戸の老舗です。
 まずは、新富2丁目へどうぞ。角地に建つ大正期の2階屋を見るだけでも、価値があります。凛として、美しいたたずまい。軒の上には屋号を書いた大看板、玄関脇の白壁には「舞踊足袋処」の木の看板が誇らしげに掲げられています。
16-b 看板のとおり、ここは舞踊家や歌舞伎役者さんなどの注文足袋を手作りで仕上げている店です。「大野屋の足袋」といえば、“新富形”とも呼ばれ、足元を粋に見せる足袋として知られています。ふっくらと履き心地よく仕上げながら、型紙の工夫と縫製の技術で、すっきりとしたつま先に仕上げる秘伝ともいうべき技が凝らされているのです。
 着物の裾から見える足袋の爪先がぼってりと太いのは“野暮”。江戸の“粋”な芸を、それこそ足元で支えていたのが、ここの足袋!というわけです。そして、何百枚という舞いの名手や名優たちの足の型紙こそが、この店の財産なんですね。
 一足に何ヶ月もかけて作ってもらう特別あつらえ足袋は難しいとしても、私たちでももちろん大野屋の足袋を買うことはできますよ。同サイズでも、細(特に細め)、柳(細めの普通)、梅(少し甲高)、牡丹(特に甲高)の4種類があり、フィットする足袋とはまさにこのことか、と納得されるはず。白足袋がもちろん素敵ですが、伝統柄の色足袋もかわいらしいですよ。
 そして、お土産にはミニチュアの足袋「福足袋」をぜひ、どうぞ。長さ10センチ程と小さいのに、細部まできちんと作られていて、コハゼも本物。でも、赤ちゃん用ではなくて、“ご利益もの”として人気なんです。
 どんな“ご利益”があるか、ですって?
 「おあしが入る」……おわかりですよね? これも江戸の洒落、野暮な説明はやめておきましょう。宝くじと一緒に置いておくとよく当たるとの評判です。ぜひぜひ、お試しを!!

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