【人形町志乃多寿司總本店】
◆火事見舞い”のお寿司◆
 「火事と喧嘩は江戸の華」と言いますが、実際、江戸は火事が多く、町内中が焼け出される大火事も、しばしばありました。しかし、火事が多いのは、今も変わりません。東京消防庁管内で発生した火災は、令和元年の1年間だけで4089件。死者は108人にも及んでいるのです。
 ところで、ひと昔前までは、火事で類焼を受けた家や水浸しになってしまった家には、火事見舞いが届けられていたのをご存じですか。当店の志乃多(いなり寿司)と海苔巻の入った折詰も、そんなご用によく使われたものです。火を使わずにそのまま手で召し上がっていただける簡便性と、生ものが入らないところがお見舞いには喜ばれたのでしょう。
 それが、いつの頃からか、火事見舞いの折詰を作ることがなくなりました。飲食店やコンビニが増えたので、食べ物に困ることがなくなったから……? いや、多分そうではないでしょう。火事見舞いは、緊急食料の差し入れである以前に、知人の災難を思いやる心をかたちにしたものでしたから。
 殺気だった雰囲気と、失ったものへの切ない思いに乱れる被災者の心を、ほのかに甘い小さな寿司が少しでも救ったのではないか――火事見舞いがなくなった昨今の風潮を、ちょっと寂しい思いでみております。
人形町志乃多寿司總本店
●中央区人形町2-10-10
●03(3666)4561

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