大旦那のちょっといい話<澤島孝夫さんの巻(3)>【実は、落語も好き!】
みよちゃん さて今日は、第2回の最後につぶやかれた「中央大学の落語研究会を創設したのは僕」…という衝撃の告白の続きを、まず聞かせてください。
(澤島) いや、本当の話なんです。
大学に入ってまもなくだったと思うけど、高校時代からずっと一緒の友人と「落語でも聴きに行くか」なんて話をしていたら「落語、好きなんですか?」と声かけてきたヤツがいて、じゃあ一緒に聴きに行く?……なんて話をしているうちに盛り上がって、いっそクラブでも作っちゃうか、と(笑)。
で、有名な噺家に「顧問」になってもらうと、部員がいっぱい集まるんじゃないの?
なんて、これまた調子にのって電話帳調べて、円生師匠なんかに電話したものの、門前払い。当然だよね。ところが、なんと桂文治師匠が「ようがす!」って言ってくれたから驚いた。
みよちゃん 落研の顧問が、9代目桂文治さん(高安留吉)?! 信じられません。
(澤島) 好い人なんで、上手に断れなかったんだろう(笑)。ちなみに、今も中央大の落研の顧問は、文治さんの弟子が引き継いでくれてますよ。
ともあれ、そんなこんなで落研を作って寄席通い。人形町の「末広亭」なんかは、ほんとによく行きました。ところが、聴いていると、みんな自分で演りたくなっちゃうんだなぁ。
僕も「ふられ亭狂太」という芸名つけて、大学の4年間は教室じゃなくて落研に通ってるような具合でした。卒業後の話だけど、落研の創設15周年の時には、『桂文治の世界』なんてタイトルつけたLPを自費出版で限定100枚作ったり。
みよちゃん 出世払いで、文治さんに御礼ができたんですね。いい話。
それにしても1950年代から60年代といえば、名人と言われた噺家さんが百花繚乱の時代ですよね。澤島さん、おすすめの噺家さんや、おもしろい落語演目を教えていただけませんか?
(澤島) 落語で「笑い」を取るということは、その時代時代の人気のある噺家にとっては、それほど難しいことではないでしょ。 だから「笑わせる噺家」ではなく、「聴かせる噺家」ということでなら、まずは別格が2人。
別格の1人目は、5代目古今亭志ん生(美濃部孝蔵)。他の噺家が言ったらなんでもないような言葉でも、この人が話すと、おかしみのある洒落になる、という天性のものがあった。
もう1人の別格は、8代目桂文楽(並河益義)。同じ噺は、いつ、どこでやっても同じ時間で話し終わるという正確さ。しっかりと計算され、作りこまれた噺は、なんとも言えないすがすがしい粋な味わいがあった。高座にあがった時の挨拶は、「えー」ではなく、「いっぱいのお運び、ありがたく御礼申し上げます」って言ったんだ。
みよちゃん 一度、ライブで聴きたかったです。では、別格のお二人以外で、落語演目のベスト5といえば?
(澤島) では5人5話。どれも玄人好みの噺家だけど、まずは

6代目三遊亭圓生(山崎松尾)の【鰍沢】
この人は寄席での噺は平凡だったが、独演会や落語会なので実力を発揮した。

8代目林家正蔵(後に彦六,岡本義)の【たばこの火】
芝居噺で独特の味を出す人で、寄席でトリの時に踊る「すててこ」は天下一品だった。

3代目桂三木助(小林七郎)の【芝浜】
ばくち打ちの噺をやらせたら、この人の右に出る者はいない。なんたって本人も、若い頃は賭場に出入りして「隼の七」異名をとっていたという経歴を持つ。

8代目三笑亭可楽(麹池元吉)の【らくだ】
舌足らずで無愛想な噺家だが、現在の噺家にはない独特の語り口がいい。そして最後は

8代目春風亭柳枝(島田勝巳)の【搗屋無間(つきやむげん)】
人情噺を得意とした人で、誠に丁寧な語り口。男の色気を感じさせる噺家で、高座着の着こなしがピカ一だった。噺のあとの「江戸の踊り」も天下一品。

みよちゃん いや、おそれいりました。では、おあとがよろしいようで…(笑)。
次回は、澤島さんおすすめのジャズのベスト5をうかがって、いよいよ大団円。
どうぞよろしくお願いいたします。

 

■プロフィール
澤島孝夫(さわしま・たかお)
東京・上野の蕎麦店「蓮玉庵」6代目当主。1938年、東京池之端仲町生まれ。中央大学商学部卒。蕎麦を打つかたわらジャズ鑑賞を趣味とし、30年以上に及ぶ。特にデューク・エリントンのレコード収集は日本一といわれる。国内のみならず海外のライブハウスも徘徊。
著書『東京下町JAZZ通り』はジャズ仲間3名での共著だが、ここでは喬木省三(たかぎしょうぞう)」のペンネームを使っている。その他、蕎麦猪口、落語なども造詣が深く、趣味人として知られる。2000年頃から蓮玉庵でのジャズライブ「ロータス・ジャズ・クラブ」の企画を始めた。
蓮玉庵ホームページ:http://www.rengyokuan.com/

 

聞き手:太田美代

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