【第三十五回目】
日本橋さるや:楊枝で知る、お江戸のエコ
こんにちは。老舗のコンシェルジュです。
エコブームが続いていますが、もはや単なる流行やファッションではなくなってきましたね。未来の子どもたちにも住みやすい地球であるために、私たちがするべきことがたくさんありそうです。
でも、環境問題についてはまだまだ誤解も多いようで、たとえばよく言われるのが「割り箸」論争。日本人の食生活のなかで当たり前のように使われてきた割り箸が、果たして悪なのか、善なのか……。実はこの話はそう簡単ではないのですが、少なくとも「木を切る」ということだけで自然破壊と結びつけてしまう見方は乱暴です。日本には、自然を利用しながら、一方で植生や生態系を守っていくという、人と自然の巧みなお付き合いがあるのです。今日、ご紹介する「日本橋さるや」も、そうしたシステムを支えている1軒かもしれません。
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「日本橋さるや」は、300余年の歴史をつむぐ、日本でただ一軒の楊枝専門店です。といっても、この店の楊枝は、一般によく見られる大量生産品ではなく、すべてクロモジを材料とする高級品です。
クロモジはクスノキの仲間の木で、樹皮などによい香りのする精油成分を含んでいるので、口に含むと、爽やかな香りがします。しかも、細く削っても弾力性があるので、しなやかに曲がって歯あたりがよく、折れにくいのです。楊枝なんて、どんな木でも細く削いだら使えそうですが、この木が選ばれているのには、ちゃ~んと理由があるんですね。
さらに、利便性だけではありません。わざと削り残す黒い木肌の素朴な美しさも、この木ならでは。お茶のお菓子に添えられたクロモジの木肌は、フォークやナイフ、象牙の箸などにはない風情を感じさせるでしょう。日本の文化って、ほんとによく考えられているんです。
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35-c 「日本橋さるや」の楊枝、ご家庭でもぜひ使っていただきたいのですが、プレゼントとしても好評です。辻占の紙を巻きつけた楊枝や「金千両」や「大入」といった縁起文字が書かれた桐箱入り楊枝は、お年賀や営業グッズに最適。ちなみに、桐箱に書かれている文字は、ご当主の手になるものだとか。また、鶴や刀、鰻などの形に細工を凝らした菓子楊枝も人気があるそうです。
楊枝は一度使えば終わりですし、小さな暮らしの道具ですが、この店の楊枝はすべて手仕事。細部まで職人の手わざが生きています。そして人がこのクロモジの木を利用することで、林に手が入り、そこに棲む動物が育つ環境も続いているのです。
江戸の知恵、見直したいところがたくさんありますね。

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