【第一回目】
更科堀井:喉ごしでいただく繊細な蕎麦
東京で今いちばん人気のデートスポットは、六本木ヒルズから麻布十番エリアをめぐるコースなんだとか。天空にそびえる超高層のビル「六本木ヒルズ」エリアには、先鋭的なショップがいっぱい。一方、麻布十番には昔ながらの風情が香る店がずらり。そのギャップが楽しいのでしょうね。
 さて、その風情たっぷりの麻布十番商店街のなかでも老舗中の老舗といえば「更科堀井」。蕎麦好きなら、とっくにご存知ですよね。堀井家の家伝によれば、創業は寛政元年(1789)といいますから、江戸幕府では松平定信公が寛政の改革に取り組んでいる真最中。海の向こうではフランス革命が起きて、マリー・アントワネットが真っ青になっていた頃です。
0510-b創業当時から麻布の地に店を構え、大名屋敷や有力寺院にもお出入りをゆるされ、明治期には宮家などにも出前をしていた由緒正しいお蕎麦屋さん。蕎麦の実の芯の部分だけを用いて打った真っ白な「さらしなそば」は、今では珍しくありませんが、この清廉な白さを生み出す蕎麦粉の挽き方を最初に考案したのは、このお店だといわれています。
というわけで、この店に来て「さらしなそば」を食べずに帰るわけにはいきません。辛口と甘口の2種類のつゆも、枯れ節だけでとった本格派。私は甘口を2割入れて、ひと口いただき、辛口を8割加えて残りをいただきますが、もちろんご自由に。甘口といっても食べたあと口に残る甘さではなく、辛口といってもとがった辛さではないところがこの店のつゆの真髄。まあ、だまされたと思って食べてみてください。そばにつけることで、つゆのおいしさがわかります。
0510-cそうそう、「さらしなそば」はだらだら食べていてはダメですよ。どんな蕎麦ももちろんそうなのですが、「さらしなそば」は香りもコシも、いよいよはかない命だと思って一気にいただきましょう。柚子切り、よもぎ切りなどの「季節のかわりそば」も同様に。
では、最後にこっそり私のイチオシをお教えしましょう。それは、「鴨せいろ」。実は温かいつゆのお蕎麦は苦手なのですが、この店のこの一品だけは別。お試しあれ。お蕎麦を「さらしな」にするか、手打ちで打つ色の黒い「もり」にするか聞いてくれます。お酒を飲む方には地酒(店主の地酒選びのセンスはなかなかのもの)と一緒に「卵焼き」もおすすめなのでした。

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