大旦那のちょっといい話:<細田安兵衛さんの巻(5)>【節分と“お化け”とけじめ】
■プロフィール
細田 安兵衛(ほそだ やすべえ)
榮太樓總本鋪 相談役。東都のれん会会長。茶道 宗遍流時習軒十一世家元。
1927年、東京日本橋に生まれる。慶應義塾幼稚舎から同大学(昭和25年)卒。
現在、東商名誉議員、全国観光土産品連盟会長のほか、和菓子業界や地元日本橋に関わる団体役員なども務めている。藍綬褒章、勲四等瑞宝章受章。

 

みよちゃん 2月に入るとすぐに節分ですね。節分は二十四節の最終節・大寒の末日で、翌日は寒明けの立春。そういえば日が長くなってきて、陽射しも春めいてきました!
(細田) 「節分」は季節の分かれ目の日だから本来は立春・立夏・立秋・立冬と年に4回あるわけだけど、立春前日のこの「節分」だけが現代まで生き残っているね。ほかの3つのような単なる季節の交代だけでなく、新しい年の季節の幕開けとして捉えているからだろうな。
みよちゃん 何より、寒くてつらい季節から暖かな季節になるという喜びがあるように思います。
(細田) 確かにそうだな。それから「これで正月も終わりにして、日常に戻る」という、ケジメのような意味合いもあるんじゃないかな。
みよちゃん なそうですね。お寺や家庭では「鬼は外、福は内」と豆まき。あの明るくて、元気がいい行事で、気持ちも一新するような気がします。
(細田) 花街では「お化け」も出るよ(笑)。
節分とその前後の数日間、芸者さんたちが、いつもとは違う扮装をしてお座敷に出てくる。話題の有名人に変身したり、年増芸者がお酌になったり、椿姫のドレス姿でオペラを歌ったり、男に化けて歌舞伎の名場面を演じたり……、この日ばかりはなんでもありというおもしろい行事だ。
みよちゃん 京都の祗園で盛んですが、東京でも新橋や浅草などの花街で、江戸前の「お化け」が出没するんですね。
(細田) そう。でも、「お化け」は、その日だけ見に行って「芸者さんがおもしろい格好をしている」と言って楽しむというもんじゃなくて、常連の旦那衆が、いつもとはまったく違う芸妓の姿や芸に接するからおもしろいんだ。向こうも、ご贔屓さんたちにどう楽しんでもらおうかとアイデアを練って、衣装を揃えて、出し物のための稽古を積んでその日に備えるんだから。
みよちゃん 単に、その日は仮装を楽しむ、という行事じゃないんですね。
(細田) 「お化け」は、正月が終わって少し寂しくなったお座敷に来てもらおうという花街の戦略でもあるから、おもしろいだけじゃなくて、ちゃんと“見もの”になってないといけない。
そして一方では、日頃、厳しい芸や躾の世界にいる妓たちが、ほんのつかの間、上下関係や行儀、しきたりや規則などのきゅうくつな物事から開放されてストレスを発散できる日にもなっていると思うんだ。
みよちゃん 花街に限らず、人間は、時に「仮装」して別の人間になってみたくなるんでしょうね。お祭りの衣装やお面などもそうでしょう?
(細田) そういえば西洋のハロウィンなんて行事も、節分の鬼と同じように、魔女や悪魔の格好をするなあ。どうやら「お化け」は、とくに祭りの時などには洋の東西を問わず世界中にありそうだ。これは、ちょっと調べてみるとおもしろいかもしれないなぁ。
みよちゃん 今日はありがとうございました。

 

聞き手:太田美代

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