老舗の歳時記 「除夜の鐘」

「中清」当主・中川敬規さんがご紹介する浅草寺の「除夜の鐘」

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浅草寺の鐘楼

 1年最後の日、大晦日の夜半から新年にかけて日本各地の寺院でつかれる「除夜の鐘」。

 私が生まれ育ち、代々が営む天ぷらの店「中清」のある浅草でも、浅草寺の除夜の鐘の音が街に鳴り響いて、新年が始まります。

 浅草寺の鐘は、戦災で鐘楼が焼け落ちましたが、鐘が無事だったことから戦後まもなく鐘楼が再建され、昭和26年から108人の信者によって除夜の鐘がつかれるようになりました。この会を百八会(ひゃくはちかい)といいます。
 最初に鐘をつくのは、浅草寺管主。2番目は檀家総代……と、最初の方は決まった方がつきますが、あとは11月にお知らせが届いてからの申し込み順。自分の好きな順番に鐘をつけるわけではありません。ただ、108つのちょうど半分、54番目だけは「今が半分」ということで浅草のすきやき店・今半のご当主と決まっています。下町らしく、シャレが利いていますでしょ。
 ほかに、歌舞伎役者の中村勘九郎さんや七之助さん、落語会からは林家三平さんなど浅草に縁の深い方々もいらして、華を添えてくださっています。

 さて大晦日。百八会の面々は、11時過ぎには鐘楼の前に集まります。ここで、鐘をつく順番が書かれた札・記章が手渡されます。写真をご覧ください。
「第十番」とあるのは、10番目に鐘をつくということ。上に「鶴」や「亀」の字が書かれている番号は「四」や「九」などの文字を避けたもので、「亀 第八番」は9番目、「鶴 第十八番」は19番目を表しています。こうした縁起もお正月らしく、有難いものです。

 やがて、浅草の街を埋め尽くした初詣客のカウントダウンの大合唱が始まり、午前0時ちょうどに管主によって除夜の鐘がつかれると、どよめきのような大歓声と拍手が湧き起こります。毎年のことながら、浅草っ子の胸が高鳴る瞬間です。続いて、捨て鐘という、数に入れない鐘が3回つかれた後、私たち百八会の会員が鐘をついてきます。合掌し、心を込めて「ゴォ~~ン」。浅草寺の鐘は、厚みのある深く荘厳な音です。

 鐘をつき終えると、お屠蘇をいただき、お正月の繭玉飾りや御供物などを頂戴して、店に戻ります。玄関を入ったすぐの場所に、いただいた繭玉飾りに番号の書かれた記章を結びつけて飾れば、「中清」の正月飾りの総仕上げ。1年間飾ってありますので、ご来店の折は、ぜひご覧になってください。

 除夜の鐘は、人間の百八つの煩悩を取り除くとも言われています。皆様にとりましても、新しい1年が、無事で幸福な日々でありますようお祈り申し上げます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

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 除夜の鐘をつく順番を示す「記章」。2025年は14番目に除夜の鐘をついた。