大旦那のちょっといい話【老舗当主の「襲名」】
「襲名」といえば、歌舞伎役者が「市川團十郎」や「中村勘三郎」「尾上菊五郎」などの名跡を継ぐことがよく知られています。こうした「襲名」は、芸名を継ぐことで、その名にふさわしい役者に成長し、芸や技の真髄を伝えていこうという意気込みを表すもので、襲名披露公演などが賑やかに行われます。ただ、この「襲名」は、本名まで変えているわけではありません。
一方、古い商家でも先祖の名前を受け継ぐ「襲名」を行う店があります。そして、こちらでは、しばしば法律上の名前も変える「改名」をします。
一方、古い商家でも先祖の名前を受け継ぐ「襲名」を行う店があります。そして、こちらでは、しばしば法律上の名前も変える「改名」をします。
改名は、現在の名前によって日常生活に大きな支障を及ぼしている人などが家庭裁判所に変更理由を書いた資料を添えて申し立てを行い、正当な事由があると判断された場合に限り許可されます。老舗の当主が名前を変える場合も同じ手続きを踏みますが、代々が襲名を行ってきたという前例があるため、審査は比較的スムーズに進むようです。変更許可が下りると、市区町村役場に審判書の謄本を添えて変更の届けを出し、戸籍の変更が行われます。
そして、戸籍が変更されると、すぐに法人登記や印鑑証明などの会社関係の書類の変更を進めます。さらに個人の銀行通帳やマイナンバーカード、免許証、パスポート、キャッシュカード、関係する団体の書類の肩書などさまざまなものについて改名手続きをしていきます。
なお法律上、同一戸籍内に同じ名前がほかにあることは認められていませんので、老舗で行われている襲名は、その名を名乗っていた人が亡くなったあとに行われます。
近年では2020年に「にんべん」の髙津社長、2024年に「榮太樓總本鋪」の細田会長、2025年に「千疋屋総本店」の大島社長が戸籍も変える襲名を行いました。
当主の襲名は、店の継続と繁栄の証し。少し古めかしい名前が書かれた名刺から、店の歴史の重みと誇りが伝わってくるようです。
店名 | 創業年 | 襲名した名前 |
黒江屋(漆器) | 元禄2年(1689) | 12代 柏原孫左衛門 |
山本山(茶) | 元禄3年(1690) | 10代 山本嘉兵衛* |
にんべん(鰹節) | 元禄12年(1699) | 13代 髙津伊兵衛 |
吉德(人形) | 正徳元年(1711) | 12代 山田德兵衞 |
更科堀井(蕎麦) | 寛政元年(1789) | 8代 堀井太兵衛* |
榮太樓總本鋪(菓子) | 文政元年(1818) | 7代 細田安兵衛 |
羽二重団子(団子) | 文政2年(1819) | 6代 澤野庄五郎 |
千疋屋總本店(果物) | 天保5年(1834) | 6代 大島代次郎 |
山本海苔店(海苔) | 嘉永2年(1849) | 6代 山本德治郎 |
宮本卯之助商店(神輿) | 文久元年(1861) | 7代 宮本卯之助 |
*戸籍は変えずに襲名